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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「おやおや! 嫌にしめっぽくなっちゃったねえ。お葬式じゃああるまいし……なんだい! ふたりで泣いてやがらあ!」

と当てのはずれた腹立ちまぎれにトンと一つ黒襟を突きあげて、相手なしの見得を切ったが。

ちょうどそのころ、本所鈴川の屋敷では――。

闇黒に冷えゆく屍骸につまずいて、栄三郎が倒れるそこを左膳が斬りおろす……。

が、その時!

下からささえた武蔵太郎は刃ごたえがあって、一声肝腑をえぐる叫びをあげたのは剣狂丹下左膳であった。

人を斬ってばかりいて、近ごろ斬られたことのない左膳、しばらく忘れていた鉄の味を身に感じて、獣のようなおめきとともにたたら足を踏んで縁にのめり出たが、あらためるまでもなく、傷は、右膝に食い入ったばかりで、骨には達していない。大事ないと見きわめるや、かれは再び猛然と乾雲丸を取りなおした。

隻眼隻腕、おまけに顔に金創の溝ふかい怪物……このうえ跛者とくりゃあ世話アねえや! ととっさに考えるとそこは老獪の曲者、火急の場にも似ず、痛みを耐えるようににっと歯を噛んだ――笑ったのだ。

「さあ己れッ! この礼はすぐに返してやる!」

「…………」

答のかわりにはね起きた栄三郎は、直ちに跳躍して追撃を重ねる。