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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
言いながらもう懐紙を出して、ゆっくりと裾をはらっている。
相当の年齢。服装なども、眼にはつかないが、争えない高貴なおもむきを示して、何よりもそのふくよかな穏顔に、人なつっこい笑みが春の海のように輝いていることだった。
ぼんやり見ていた喜左衛門の女房はわれに返ったように再び侍の足へ突進して、転ぶようにしゃがむなりまたほこりをたたきだした。
「わたくしの不調法でございます。お手ずからはあんまりもったいなくて、恐れ入ります。どうぞおゆるし遊ばして」
「いや。それにはおよばぬ」
侍は急いで身をひくと、手を取らんばかりにして、なおも争う老婆を立たせた。
「ははは、なんのこれしき! お前も家にはいっては人の妻、母、いやもう祖母であろう。その妻たり母たり祖母たる者に足を拭かせたとあっては、わしがその人々に相すまん。な、許してくれ。ここはわしのほうであやまる。ははははは」
なんというわけのわかった、奥ゆかしいお侍だろう!――と老婆が涙ぐんで頭をさげていると、「だが」と侍はつづけて、「往来筋の掃除は、まだ人の出ん早朝のうちにいたしたがよろしかろう。あ、これ! それから、あそこに散らばっておる紙屑古下駄のたぐい、新しき年を迎えるに第一みぐるしい。