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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

藍絵のような月光。

近いところは物の影がくっきりと地を這って、中の郷のあたり、甍が鱗形に重なった向うに、書割のような妙見の森が淡い夜霧にぼけて見える。どこかで月夜鴉のうかれる声。

おさよは源十郎をふりかえった。

「殿様、いい月でございますねえ」

すると源十郎。

「おれは月は大嫌いだ」

と、はねつけるよう。

「まあ、月がお嫌い――さようでございますか。ですけれど、なぜ……でござんしょう?」

「なぜでも嫌いだ。月を見るとものを思う。人間ものを思えば苦しくもなる。そのため――かも知れぬな」

「お別れになった奥様のことでも思い出して、おさびしくなるのでございましょうよ」

「ふふふ、そうかも知れぬ。ま、早くしめるがいい」

すっかり戸締りができると、源十郎はまた寝そべって、

「さよ、ここへ来て、ちょっと肩へつかまってくれ」

按摩を、と言う。

おさよは襷のまま座敷へはいって、源十郎の肩腰を揉み出した。

「もう何刻かな?」

「つい今し方回向院の八つが鳴るのを聞きました」

「そうか。道理で眠いと思った。あああああ!」

大欠伸をしながら、

「貴様、年寄りだけあって眠がらんな。身体が達者とみえる」