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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
を見せたり話したりしたなら、いかな丹下さまでも、今度はふっつり弥生のまぼろしを追い払って、こっちの実にほだされるかも知れない。いや、そうなるにきまっている。
しかも、訴状のおもては本所の殿様のお名になっているのだから、これでりっぱに左膳と源十郎の仲をも割いて早晩一度は、左膳の剣に源十郎の血を塗ることもできようというもの――橋わたしの約束にそむいて、わがことしか考えない、憎い源十郎の殿様!
恩だ!
恩だ!
恩を売るのだ! あのお方だって木でも石でもないはず、ことにお武家は恩儀にだけは感ずるという――。
いよいよ痛切に左膳に対する己が恋慕をたかめたお藤は、恩! 恩! おん、おん! と拍子をとるように心いっぱい、胸のはりさけるほど無言の絶叫をつづけながら足を宙に左膳の危難に駈けつけて短銃一挺の放れわざ。あわやというところで丹下左膳を助け出し、そして!
どこへ……つれて行くかは、彼女にはちゃんと当てがあったのだ。
あそこ――お藤のほか誰も人の知らない彼地へ!
本所鈴川の屋敷で、剣怪左膳をとりまいて十手と光刃がよどんでいる最中……。
櫛まきお藤が忽然と姿を見せてふところ鉄砲ひとつで左膳を庇ってともに落ちのびていった、そのすこし前のことだった。