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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

これは丹下に対し、すこウし困ったことになったぞ」

こう胸中にくり返しながら、源十郎はあたまの雪を払って座敷に戻った。

しかし彼は、乾雲丸のことよりも、きょうおさよに約束した栄三郎への手切れ金五十両の工面に、はたといきづまっていたのだった。

五百石のお旗本が五十両にさしつかえるとは……考えられないようだが不義理だらけで首もまわらず、五十はおろかただの五両にも事欠く源十郎であった。

煩悩は人を外道に駆る。

ひとつ――殺るかな……。

と、やみに刀をふるう手真似をしながら、かれが縁にあがりかけると、いつのまに来たのか、障子のなかに土生仙之助の鼻唄が聞こえていた。

江戸に、その冬はじめて雪の降った宵だった。

ふたつの涙

「ええ。どうせわたしはやくざ女ですともさ。そりゃアどこかの剣術の先生のお嬢さんのように、届きはいたしませんよ。ヘン! おあいにくさまですねえ」

お艶はちょっと口をへの字に曲げて憎さげに栄三郎を見やった。

不貞腐れの横すわり――

紅味を帯びたすべっこい踵が二つ投げ出されたように畳にこぼれているのを、栄三郎は苦しそうに眺めて眼をそらした。

どんよりと曇った冬の日だ。