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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「そうか」

破裂を包んだ低声。

見せじとつとめる涙が、われにもなくにじみ出てきて――。

ワッ! とお艶はそこへ哭き伏した。

「お世話に……」

「なに?」

「お世話になりましたことは、お艶は死んでも忘れません」

「フン! 吐かしおる」

栄三郎はすでに平静にかえっていた。

大刀武蔵太郎安国のこじりに帯をさぐって、坤竜と脇差と番にスッポリと落とし差したかれは、刀の重みを受けて刀にゆるむ帯を軽くゆすりあげたのち、ちょっと大小の据わりをなおして、ゆらりと土間におり立った。

片手に浪人笠。

履物を突っかける……と、ブラリそのまま格子戸をくぐり出ようとした。

「あなたッ! 栄三郎様ッ」

お艶の声が必死に追いかける。が、彼は振りむきもせずに、

「達者に――」

「え? もう一度お顔をッ!」

悲涙にむせんだお艶、前を乱した白い膝がしらに畳をきざんで、両手を空に上り框までよろめき出ると、

「えいッ! 達者に暮らせ!」

一声……ピシャリ! 格子がしまって、男の姿がちらりと陽ざしをさえぎったと思うまもなく、あがり口に泣き崩れたお艶は、露地の溝板を踏んでゆく栄三郎の跫音がだんだんと遠のくのを、夢のように聞かなければならなかった。