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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

からからと笑いながら刀身を鞘へ……

が! この時!

この栄三郎のにわかの抜刀を、裏口のすきからのぞいて、ビックリあわてた黒い影があったのを栄三郎は知らなかった。

雪に紛れて忍び寄った一人の女が、さっきから勝手の障子にはりついて、そっと家内をうかがっていたのだ。

だれ? と見なおすまでもない。

夜眼にも知れる粋すがたは、道行きめかした手拭をかぶった櫛まきお藤。

急の剣閃におどろいて一時戸を離れたのが、相手なしの見得と知ると、またコッソリ水口に帰ってきて、呼吸を殺して隙見している。

しんしんと音もなく積もる雪。

江戸に、その冬はじめて雪の降った夜だった。

栄三郎は、床を敷いて夜着をかぶった。

モウ――ンとこもって、どこか遠くで刻を知らせる鐘の音。

「四つか」

思うまい――としても、まぶたの裏に花のように咲くのは、出ていったお艶の顔だ。

この降雪に、どこにいることか――当り矢のころからのことが走馬灯のように一瞬、栄三郎の脳裡をかすめる。

きょう留守のあいだに泰軒がきて、お艶からそのふかい真意を明かされ、何か考えるところのあるものか、しばし思案ののち快くお艶の身がらを引き受けて、つれだって家を出て行ったことは、栄三郎は知る由もなかった。