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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

その丹下の急使というので、一同、与吉を城内へ許しておいて、すぐひとりが、何人もの口を通して宿直の重役へ伝達する。

重役から茶坊主、坊主からお側小姓と順をふんで、それから国主大膳亮の耳へ――。

早速これへ!

となって、城内に時ならぬ人の動き。

とりあえず焚き火をあたえられて暖をとっていたつづみの与吉、旅仕度のまんまでお呼び出しに預かり、火焔をうつして樹影あざやかなお庭を、案内の近侍について縫ってゆくと、繁みあり、池水あり、数奇結構をこらしてさながら禁裡仙洞へ迷いこんだおもむき。

夢のような夜景色といおうか……ぼんやりした与の公が、キョトキョトあちこち見まわしながら、とある植えこみから急に広い芝生へ出たときだった。

さきに立つ若侍がしいッ! と声をかけたので、あわてて頭をさげた与吉、気がついてみると、遙か向うのお縁側にくっきりと明るい灯がうかんで、二、三の人影が豆のように小さく並んで見える。

まだよほど遠いが、それでもここから摺り足に移った。

骨を刺す寒夜ににわかの謁見だった。

縁ちかく敷居ぎわに、厚い夜の物を高々とのべさせ、顎を枕に支えて腹這いになっている国主大膳亮は、うち見たところ五十前後の、でっぷり肥った癇癖らしい中老人である。