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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

声が聞こえる。

「ア、これこれ与吉、待っておったぞ! よい湯加減じゃ。背中をながせ、せなかを流せ」

というように。

しかもそれが暴風雨のひびきのいたずらとも、水音のなす耳のせいとも思えるのだが、こんどはハッキリと一声、たしかに河のそこからどなるように立ちのぼってきたから、与吉はもちろん、月輪組の一統、あッ! とおめくなり急淵を蹴って河中に散った。

「来ぬかッ! しからば当方より出向くぞッ!」

と同時!

今のいままで笊の川ながれ塵埃の集結と見えていた丸い物が、スックと水を抜いて立ちあがったのを眺めると、裸ん坊の泰軒先生!

九つの生命でもあるものか。いつのまにやら先まわりして、先生、さっきからこの夜ふけの鞍川につかって待ちぶせながら、のんきに行水と洒落のめしていたのだ。

全くの不意うち!

おまけにたびたびの出会いに泰軒の秀剣を見せつけられ、すっかりおじけだっているから苦もない。蜘蛛の子のようにのがれ散る影を追って、泰軒、水煙とともに川に二人を斬りすてた。

門脇修理ほか一人。

そして与吉を先に、軍之助が風雨に狩られ余数をあつめて、水戸街道を江戸の方へ走りつつあるとき、泰軒は、岸の小陰から衣類とともに例の血筆帳を取り出して、血にそむ筆で二人と大書していた。