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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

で、しばらくは交際に、神妙に首をひねると見せかけていた源十郎が、今宵の手裏剣にちと心当りがござるから――とうまいことを言って、とめるのもきかずに化物屋敷の自宅を出てゆくと、あとには離室の一同、寒燈のもとになおも議を凝らしていたが、ただひとり暗い夜道を思案にくれてあてどもなく辿る源十郎の肩には、三更の露のほかに苦しい金策の荷が、背も折れんばかりに重かったのだった。

その夜の闇黒は、源十郎のこころだった。

真っ黒に塗りつぶされたような入江町の往来を、ふところ手に雪駄履きの源十郎が、形だけは八丁堀めかして、屈託げに顎をうずめてブラリ、ブラリ――さて、こうして人中を逃れて考えをまとめるつもりで出は出てきたものの、この夜更けにどこへいこうの当てがあってのことでもなければ、また何人のところへ持ちこんだところで、もう源十郎にはオイソレと金のはなしに乗ってくれるものもないのだった。

で、思案投げ首。

五十両……五十両と心中にうめきながら、河岸にそって歩いてゆくと、時の鐘楼が夜ぞらに浮かんで、南割下水の津軽越中様お上屋敷の森がひとしお黒ぐろと押し黙って見える。

どこからか梅の香が漂ってきている。