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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

無言のうちに箸をとる。

ふと栄三郎が気がつくと、むこう側の泰軒正座して眼をつぶり、しきりに何かを念じているようす。

ははあ、今宵は心祝いがあるといって小豆めしを炊いた、それを祈っているのであろう――とは思ったが、栄三郎は聞きもしなかったし、泰軒もまた黙ったまますぐ食事にかかった。栄三郎がこの赤の御飯を食べさえすれば、かれが知る識らぬにかかわらず、やがては身ふたつになる、お艶への前祝いと観じて、泰軒はそれでこころから満足しているのだった。

だんまりをつづけて食事がすむ。あと片づけは栄三郎の役目。

泰軒は手枕、ゴロリとそこに横になった。

そして、栄三郎が水口で皿小鉢を洗う音をウツラウツラと聞きながら、ひとり何ごとか思いめぐらしている。

しいんと世間はしずまりかえって夜の呼吸が秘めやかに忍びよってきていた。

蒲生泰軒……。

かれは、かの殺生道中血筆帳をふところに北州の旅から帰って、この瓦町の栄三郎方にわらじの紐をとき、そうして血筆帳を示してすべてを物語ったのち、相馬藩月輪一刀流の剣軍が江戸へはいって、いま本所の化物屋敷に根城を置いているから、近く左膳を頭に彼らの一味が来襲するに相違ないといましめて、いまだに放れ駒のように、恋と義にはさまれて心の拠りどころなく苦しんでいた栄三郎に緊褌一番、一大奮励をうながした