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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ただこうして先刻夕がた、べに絵売りとまで身をやつしている栄三郎のあらぬ姿を見た弥生、こころいたんでやまないのはぜひもなかった。

三月二十一日より四月十五日まで深川八幡のお山びらき。

山開き客も女も狂い獅子。

これは山びらきに牡丹町から獅子頭が出るので、それにかけて言ったものだが、とにかく当時はふかがわの山開きといえば大した人気、さかんな行事の一つであった。

この期間、別当のお庭見物差しゆるす。

別当は、大栄山永代寺金剛神院。

鎌倉鶴ヶ岡八幡宮に擬して富ヶ岡八幡といい、社地に二軒茶屋とて、料理をひさぐ家があったことは有名なはなし……。

――さて、

ちょうど今がその山びらきお庭拝観の最中で昼は昼で申すもさらなり、夜は夜景色見物と、そのまた見物に出る美形を見物しようというので、近くはもとより、江戸のあちこちから集まって来る老若男女の群れが自然と行列をつくって切れもなく流れ動いている。

樹間の灯籠が光線の魔術を織り出し、そこここの焚き火の余映を受けて人の顔は赤い。

木の下やみに隠れてつれを驚かそうとする職人、ふくべをさげた隠居、句でも案ずるらしくゆきつ戻りつする大店の主人てい、肩で人浪を分けてゆく若侍の一隊、左右に揺れて押しあいへしあい笑いさざめいてくる町のむすめ達……人を呼ぶ声、ひるがえる袂、騒然とうす闇に