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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ねエ、お艶さんは白痴だ。あんな普外れた器量を持ちながらサ、こういっちゃアなんだが、男がいいばかりで能のねえ御次男坊なんかと逃げ隠れて、末はいってえどうする気だろう?……今のうちに眼がさめて別れちまえば、まだそこに身の立て方もあろうてもんだが――なんてネ、寄るとさわるとお前さんのうわさで持ちきりだったよ。が、まあ、わしのにらんだとおり、お前さんも根ッから馬鹿じゃアなかった。栄三郎と手をきって、こうして羽織を稼いでいるたア褒めてもいいね。ははははは、はやるだろう?」

「ええ、……おかげ様で、まあボツボツねえ」

「結構だ。せいぜい稼いでお母に楽ウさせるんだナ。ときに、おふくろといえば、どうしたえ、その後は? 音信でもあるかね?」

「は。まだ――」

「本所のお屋敷に?」

「ええ」

平気をよそおって富五郎とやりとりしながら、全身これ耳と化したお艶が、襖越しに気をくばっていると隣室には乾雲を取り巻く同勢十五、六人集まっているようすで、何か声だかに話し合って笑い興じている。

「しからば露地ぐちに見張りをつけて……」

といっているのは丹下左膳の声らしいが、あとは小声に変わって聞こえなくなった。