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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

思案のうちに、ハタと何かを思いついたらしいおさよ、ひとり頻りにうなずきながらまたあるきだした。

まばゆい日光が、浮世の辛苦にやつれた老婆の肩に、細く痛々しくおどっている。

駒が勇めば花が散る……。

これは駒ではないが、細工場でおもい槌をふるって、真赤に焼けた金を錬すごとに、そのひのひびきに応じて土間ぐちに近く一本立っている桜の木から、雪のような白い花びらがヒラヒラ舞い落ちる。

テンカアン、テンカアン! と一番槌の音。

あさくさ三間町の鍛冶富、鍛冶屋富五郎の店さきである。

「サ、吉公、そこんところをもうすこし、裏をよく焼くんだぞ!」

いそぎの請負仕事であるとみえて、きょうは富五郎、桜花をよそに弟子の吉公をむこうへまわして相変わらず口こごとだらけ。

「ふいごが弱えんじゃねえかナ。あんまり赤がまわらねえじゃねえか。なんでえ、飯ばかり一人前食いやがってしっかりしろい!」

――と、それでも珍しく自分で仕事場に立って真っ黒になっているところへ――。

「はい。ごめんなさい、富五郎さん」

という薹の立ちすぎた女の声が、藪から棒に聞こえて来たから、富五郎が槌の手を休めてヒョイと戸口の方を見やると、田原町の家主喜左衛門といっしょにいろいろ面倒を見てやった、奥州相馬の御浪人和田宗右衛門さまの後家おさよ婆さんが、妙にニヤニヤ笑って