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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

にもかかわらず。

涙っぽいその調子に誘われて、おさよが思わずさしうつむくと、うら口のおしんまでが湯帰りの濡れ手拭とまちがえて、雑巾で眼じりをこすっている。

春の日の午さがりだけあって、いかにも間の抜けた愁嘆場……。

なまあったかい風が、ほこりを舞わせて家をつつむ。

世の中があくびをしているよう……いかにも眠いもの憂さである。

おさよが、赤くなった眼をあげた。

「では、瓦町へ出かけて行ってお金を渡し、栄三郎さんから離縁状を取って来てくださるというんでございますね」

「そうともサ! お前さんの言うとおり、世の中は真直ばかりでもいかねえ。おまけに、手前の女房を食わせることもできずに追ん出てゆかれた栄三郎さんだ。そりゃア先様はまた先様で、なんのかのとほかに心をつかうこともあるんだろうけれど、なあに先方の都合なんざア聞く耳もいらねえ。これからすぐに瓦町へ行って栄三郎さんをおだて、ニッコリ笑って縁切り状を書かせて来てみせるから、お前さんはマアわしに任せて、なんの心配することアねえやな、今におしんも帰ってくるから、ユックリ話して休んでいなさるがいい」

「ほんとに普段は勝手ばかり、用がなければおたずねもしないくせに、とんだ御迷惑なお願いをして――」