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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

はおかないという。

それが事実であることは、誰よりも弥生が、眼のあたりに見て知悉しているのだったが、この夜泣きの刀のいわれには、単に雲竜相引の因果のほかに、底にじつに、こうして秘文合符の故実がひそんでいたのである。

わかれていて二刃、同じ深夜に相手を求めてシクシクと哭き出すというが、それは、割文となって仲を裂かれている水火の秘文が、各自その柄のなかから悲声をしぼるのかも知れなかった。

死のまぎわまで鍛刀の思いを断たない関の孫六の血肉が働いているのだ。あり得ないことと誰がいい得よう!

こうして――。

乾雲坤竜の大小、おのおのその柄の底に水火文状の合符を秘めたまま、星うつり物かわるうちに、幾代か所有主をかえ、何人もの手を経たのちに、いつの世からか神変夢想流剣道の指南、祖家の小野塚家の伝宝となって、先主鉄斎の代におよんで江戸あけぼのの里なる道場に安蔵され、年一度の大試合にのみ、賞として一時の佩腰を許されていたのが。

しかるに。

この夜泣きの刀に、あらぬ横恋慕を寄せたのが、名だたる蒐刀家の相馬大膳亮。

そして、その命を奉じて、今江戸おもてに砂塵をまきたてているのが、独眼隻腕の剣妖丹下左膳……それに対する諏訪栄三郎。