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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ふたりはギョッとしていましめ合ったが、黒頭巾の士は、馬をひいてツカツカと歩みより、

「お召しなされ! これから追えば、かの馬上左腕の仁のあとをたどることも容易でござろう。いざ、御遠慮なく!」

「かたじけない!」

泰軒は低頭して、

「どなたかは知らぬが、思うところあって御助力くださるものと存ずる」

「いかにも! すべて殿の命でござる。いたるところに疾に手配してあるによって、安堵して追いつめられい!」

という意外な情けの言葉に、

「殿……とは?」

泰軒が問い返すと、

「サ、それはお答えいたしかねる。とにかく一刻を争う場合、瞬時も早くこの馬を駆って――」

終わるのを待たで御免! とばかり鞍にまたがった泰軒と栄三郎、左膳の去った方をさしてハイドウッ! まっしぐらに馳せると、いくこと暫時にして左膳の姿を認めだしたが、左膳、馬術をもよくするとみえて、なかなかに追いつけない。三頭の馬が砂ほこりを上げて江戸の町を突っきり、ついにいきどまって浜辺へ出た。

汐留の海である。

見ると、ヒラリ馬から飛びおりた左膳は、前から用意してあったらしく、そこにもやってある一艘の伝馬船へ乗り移ったかと思うとブツリ……綱を切り、沖をさして漕ぎ出した。