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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

寂とした大江戸の眠り。

「いま何か声がしたようだな」

栄三郎がひとりごとに首をかたむけた時、

「いや、恋路のじゃまをしてはなはだすまんが、わしもちと退屈して来た。もう出てよかろう」

と野太い声が艫にわいたかと思うと、船具の綱でもまとめて、菰をかぶせてあると見えたかたまりが、片手に筵を払ってむっくりと起きなおった。

「やッ! 何者ッ!」

思わず叫んだ栄三郎、飛びのくお艶をうしろに、左腰をひねって流し出した武蔵太郎の柄をタッ! と音してつかんだ。

すべり開いたはばき元が一、二寸、夜光に映えてきらりと眼を射る。

舟尻にすわっている男は山のように動かなかった。

蓬髪垢面――酒の香がぷんとただよう。

見たことのある顔……と栄三郎が闇黒をすかす前に、男の笑い声が船をゆすってひびいた。

「はっはっは、またひょんなところで逢ったな」

言われてみれば、まぎれもない、鈴川源十郎をやりこめて五十両取り返してくれた、あの、名のない男だ。

ちょっとでも識った顔とわかって、恥ずかしさが先にたつ若いふたりがどぎまぎすると、かえって男のほうが気の毒そうにあわてて、

「こりゃいかん! わしが悪かった。