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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
瞬間、蒼い雲光で見ると、騒ぎを聞きつけた番所がお役舟を出したとみえて、雨に濡れる御用提灯の灯が点々と……。
いつのまに乗り移ったか、櫛まきお藤が去りゆく舟に膝を抱いて笑っていた。
「坤竜、また会おうぜ」
雨に消える左膳の捨てぜりふ。
「お艶ッ! どこにいる!」
としみじみ孤独を知った栄三郎が、こう心中に絶叫したとき、泰軒が艪に力を入れて、舟が一ゆれ揺れた。
「いや。先ほどから申すとおり、栄三郎のことなら聞く耳を持ちませぬ――」
主人はぶっきら棒にこう言って、あけ放した縁の障子から戸外へ眼をやった。
金砂のように陽の踊る庭に、苔をかぶった石燈籠が明るい影を投げて、今まで手入れをしていた鉢植えの菊が澄明な大気に香っている。
午下りの広い家には、海の底のようなもの憂いしずかさが冷たくよどんでいた。
カーン……カーン! ときょうも近所の刀鍛冶で鎚を振る音がまのびして聞こえる。
長閑。
その音を数えるように、主人はしばらく空をみつめていたが、やがてほろにがい笑いをうかべると、思い出したようにあとをつづけた。
「なるほど。それは、わたくしに近ごろまで栄三郎とか申す愚弟がひとりあるにはありましたが、ただいまではあるやむなき事情のために勘当同様になっておりまして、言わばそれがしとは赤の他人。