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ここのつのかぎ

九つの鍵

野村 胡堂

「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页

青空文庫

水道はさいわいビルの外側に取りつけた、雑用のものをそのまま使い、怪しいながらストーヴまで備えて、この寒空にもどうにか凌げるようになっており、ビルの壁にはミレーの版画と油絵の道具が一式かけてあるのが、この貧しげな焼けトタンの小屋を、ひどく明るく、そして文化的なものにしております。

夜はもう十二時を過ぎたでしょう。馬吉少年を走らせて、ここにくることを自宅へ知らせた狩屋三郎は、幸子にすすめられるまま、しばらくここで見張って、長い夜を明かそうと決心したのでした。

不安と焦燥のうちにも、三人の話は次第にほぐれて行きます。それは若さと純情さのおかげでしょうが、一つは波野幸子のうちとけた親切と、その見なりにも生活にも似ぬ、理解や品のよさや、行きとどいた注意などが、すっかり三郎を安心させたのです。

「どうして、悪者がお妹さんをさらったんでしょう、何んか、心当りはありません?」

幸子は熱い茶を一杯すすめながら、屈託しきった狩屋三郎をうながします。何んか話でもしていたら、少しは心もちもまぎれるだろうと思ったようです。

「心当りはあるんですよ、――悪者共は、大変なものを狙っているんです」