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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页
「大変なもの――?」
幸子は膝をすすめました。十七ぐらいでしょうか、こう灯に近く、話などをしているところを見ると、かわいらしさ以上に、この少女の聡明さに引きつけられます。
「これは有名な話なんです、――多勢の人の知っていることですから、今さら隠す必要もありません、実はぼく、三十年前に九州で炭鉱王と言われた、狩屋三右衛門の孫なんです」
「まア」
幸子も驚きの眼を見張りました。狩屋三右衛門という大炭鉱家のあったことは、三井三菱を知らない者がないと同様に、老いも若きも、日本中で知らないものはありません。
「私の両親は早く亡くなって、祖父の三右衛門だけ、戦争の終った年まで七十才を越して生きておりました。炭鉱は十五六年も前、父が亡くなった時人に譲って、祖父は全財産を宝石と純金に換え、それを東京のさるところに隠しておいたのです」
「――――」
「祖父は軍閥政治の先きを見通して、このようすでは日本が一度ひどい破局に落込むに相違ない、その時はこの宝石と純金を持ち出して、日本を救うように、その手段はあくまで平和的でなければならない。救われる人たちは、老人と不具者と病人を優先的に扱い、まず大きい養老院と慈善病院を建てるのだ、それ以外の目的のためには、一銭も費ってはならぬ――と、厳重に遺言をしたのです」