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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
教養の選良のように見られている人に、こんなありふれた男女関係の混乱がある。しかも、これらの人々にはありふれた事件をありふれた事件として判断するものを、かえって嘲笑する傲慢さがある。情景のひとこまひとこまが、よしんば教養のニュアンスで複雑にされ、情趣で色どられているにしろ、社会で生きる男と女としてはこれまでの男くさい勝手をつらぬいて、むしろその弁護にだけ役立てられる教養というものに、伸子は唾棄を感じた。
とり乱すことが出来ないだけになお苦しそうなのり子は、そこに出ていたコップをとり上げて、氷のかけらの浮いた水をひとくちのんだ。そして、しばらくいいようを考えている風だったが、いきなり、
「父親をもたない子供が生れるということは罪悪でしょうか」
といった。いい終ったのり子の鉛色のまぶたがだんだんにあからんだ。その変化は、のり子の若い肉体と精神の全血行の逆流を語った。のり子のその顔つきは、こうしてそれをみているより自分の胸の上に抱き伏せてしまった方が、まだ楽だと伸子に思わせた。伸子は、自分を凝視しているのり子の眼に、ひとこと、ひとことをうちこめるようにいった。