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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

佃と自分とがからみあいもつれあって生きたあの姿。母と越智との空虚な、しかも力いっぱいの葛藤。そして、母と娘との感情においてさえも――。伸子はその中から自分をもぎはなすように、頭をふっていった。

「ね、勇気をふるってね。いやな苦しいいきさつの中から、一番ましな部分をつかまえるのよ。生れるものを堂々と生れさせるのよ。生むことを堂々と認めるのよ。父親は逃げた。それだって、その女のひとは子供を愛しているのだわ、そうでしょう? 愛はそのひとのものだわ、そうして、子供も……。子供には子供の人生を生かしてやるのよ」

のり子の、また鉛色にかえったまぶたの下から、とめどなく涙が溢れた。のり子は、涙を抑えていたハンカチーフを口にあてて、声を忍んで嗚咽しはじめた。伸子は座をはずした。

ほどたってから、伸子が新しくこしらえた飲みものをもって座敷へ戻って行こうとすると、のり子が、どうしたのか隣室の襖ぎわへ来て立っていた。

「――気もちがわるくなったの?」

おどろいて、伸子がたずねた。

「いいえ」

のり子は半分ぼうっとなったように、涙で濡れたハンカチーフを握ったまま、なおそこにたたずんでいる。