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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
じっとしていられなくなって、我知らずそこまで動いて来たという風だった。
「あっちへ行きましょうか。立っているとくたびれることよ」
「ええ」
のり子は、ななめ下の畳を見つめながら機械的に返事したが、動こうとしなかった。伸子がひとあし進もうとしたとき、その胸にのり子がぶつかるように身を投げかけてきた。
「ねえ、あのかたのことをわるくお思いにならないで!」
低いけれども、絶叫のようにのり子はそういった。
「どうか、あのかたのことをわるくお思いにならないで頂戴!」
そして、伸子の胸から、伸子よりもすらりと高い自分の上半身をすべらせて、傍らのベッドの上へ泣き伏した。
夏の夜なかの豪雨を蚊帳のなかで聴きながら、伸子は昼間のその情景をこまごまと思いかえした。女ひとりの寝ている家の屋根瓦をうち、その庭に生い茂った夏草の根を洗って流れる雨の音と稲妻の間を縫って、あのかたをわるくお思いにならないで! といったのり子の、訴えにみちた叫びが、またきこえるようだった。あのかたをわるく思わないで。――しかし、ベッドの上に泣き伏したのり子の綺麗な友禅の絽のおたいこは、なんとせつなく波うちもだえていただろう。