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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

「いつだか私にも分りません。」

「どうして此度はそうお苦しみなさるの。」

「どうも思うように描けないんです。」

「私本当はその絵を余り好きませんわ。何だか暗くって淋しすぎますもの。」

「然し樫も叢も皆枯れはてたものばかりのつもりですから……。私はもっと深刻な陰惨な気分を出したがって苦しんでいます。」

「ええ、それは私も存じていますが、そんな絵より、もっと明るいものの方が嬉しい気がしますの。私その絵を見てると心が悲しくなってきます。何もかも枯れたものばかりだなんて、思ってもぞっとしますわ。何か悪いことが起りはしないかというような気がして。」

「え、あなたは岡部君の……。」

「いえいえ、」と信子は口早に遮った。「そんな意味ではありませんわ。……岡部は私に……肖像を描いて貰えって……。」

「あなたの肖像を私に……。」

「ええ、前から考えていたと云っていましたの。」

「そしてあなたは何と返事しました?」

「モデルになるのは嫌だって云うと、なにただ肖像を描いて貰うだけだからと岡部は云いますの。」

「それきりですか。」

「ええ。」

「岡部君はどんな話の時にそれを云い出したんです?」

「どんな話って……別に何でもありませんわ。