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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
「下士官を志望したらな、曹長までは平ちゃらでなられるいうもん。下士官は月給もらえるんど」
そこに出世の道を正は見つけたらしい。すると竹一も、まけずに声をはげまして、
「ぼくは幹部候補生になるもん。タンコに負けるかい。すぐに少尉じゃど」
吉次や磯吉がうらやましげな顔をしていた。竹一や正のように、さしてその日の暮しにはこまらぬ家庭の息子とはちがう吉次や磯吉が、戦争について、家でどんなことばをかわしているか知るよしもないが、だまっていても、やがては彼らも同じように兵隊にとられてゆくのだ。その春(昭和八年)日本が国際連盟を脱退して、世界の仲間はずれになったということにどんな意味があるか、近くの町の学校の先生が牢獄につながれたことと、それがどんなつながりをもっているのか、それらのいっさいのことを知る自由をうばわれ、そのうばわれている事実さえ知らずに、田舎の隅ずみまでゆきわたった好戦的な空気に包まれて、少年たちは英雄の夢を見ていた。
「どうしてそんな、軍人になりたいの?」
正にきくと、彼はそっちょくに答えた。
「ぼく、あととりじゃないもん。それに漁師よりよっぽど下士官のほうがえいもん」