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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

いよいよ、こんどこそ家屋敷が人手に渡るという噂も、卒業のさしせまった富士子の動きをきめられなくしているのだろうと思うと、コトエと同様、あなたまかせの運命が彼女を待ちうけていそうであわれだった。やせて血のけのない、白く粉のふいたような顔をした富士子は、いつも袖口に手をひっこめて、ふるえているように見えた。陰にこもったような冷たい一重まぶたの目と、無口さだけが、かろうじて彼女の体面を保ってでもいるようだ。

そこへゆくと、男の子はいかにもはつらつとしている。

「ぼくは、中学だ」

竹一が肩をはるようにしていうと、正もまけずに、

「ぼくは高等科で、卒業したら兵隊にいくまで漁師だ。兵隊にいったら、下士官になって、曹長ぐらいになるから、おぼえとけ」

「あら、下士官……」

不自然にことばを切ったが、先生の気持の動きにはだれも気がつかなかった。月夜の蟹とやみ夜の蟹をわざわざもってきたような正が下士官志望は思いがけなかったのだが、彼にとっては大いにわけがあった。徴兵の三年を朝鮮の兵営ですごし、除隊にならずにそのまま満州事変に出征した彼の長兄が、最近伍長になって帰ったことが正をそそのかしたのだ。