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にかいから
二階から
岡本 綺堂
「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页
木と木とが触れ合ったらこんな響を発するであろうかと思われた。そうして如何にも苦しい、寂しい、悲しい、今にも亡びそうな声である。ある人が彼を評して亡国の声といったのも無理はない。決して目出たい声でない、陽気な声でない、彼は人間の滅亡を予告するように高く嘶いているのではあるまいか。
遼陽の攻撃戦が酣なる時、私は雨の夕暮に首山堡の麓へ向った。その途中で避難者を乗せているらしい支那人の荷車に出逢った。左右は一面に高粱の畑で真中には狭い道が通じているばかりであった。私はよんどころなしに畑へ入って車を避けた。車を牽いているのは例の騾馬であった。車に乗っているのは六十あまりの老女と十七、八の若い娘と六、七歳の男の児の三人で、他に四十位で頬に大きな痣のある男が長い鞭を執っていた。車には掩蓋がないので、人は皆湿れていた。娘は蒼白い顔をして、鬢に雫を滴らしているのが一入あわれに見えた。
路が悪いので車輪は容易に進まなかった。車体は右に左に動揺した。車が激しく揺れるたびに、娘は胸を抱えて苦しそうに咳き入った。わたしはもしや肺病患者ではないかと危ぶんだ。
男は焦れて打々と叫んだ。