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ごかいのまど

五階の窓

江戸川 乱歩

01 合作の一(発端)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,189 字 · 21 页

青空文庫

三

西村の醜く歪んだ顔丈けが、艶子の眼界一杯に拡った。年にも似ないで、いやに黒々とした髪の毛が、汗ばんだ顔にたれかかり、短くせまった眉の下に、充血した両眼が、ギラギラと光っていた。薄黒い唇が淫がましく開いて、そこから脂に染まった長い歯が覗いていた。

「いけません、いけません」

艶子は最早や怒れる女王のお芝居を続けている訳には行かなかった。とうとう悲鳴を上げた。だが、それは西村を思止まらせる程、高い声ではなかった。そのことが一層彼の野心をつのらせた様に見えた。

男の手が肩にかかったのを感じると、艶子はクルリと彼に背を向けた。開いた窓の窓枠にしがみついた。うしろから生暖い息が頬をかすめた。彼女の上半身が出来る丈け窓の外へ曲った。

窓の外には、遙か目の下に、谷間の様な街路が流れていた。Sビルディングと倉庫の棟続きとに挟まれた、狭い敷石道は薄暗くかげって、人影も見えなかった。

三

新聞記者の山本次郎と探偵小説家の長谷川の二人が、Sビルディングに近いあるカフェを出たのは、午後の四時頃であった。冬の日はもう暮れかけていた。四辻の広告塔のイルミネーションが、青黒い空にクッキリと浮出しているのが、妙に物悲しく見えた。