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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

「嬉しうございます。あなたの様な美しい方に、あの御立派な奥様をさし置いて、それほどに思って頂くとは、私はまあ、何という果報者でしょう。嬉しうございますわ」

そして、極度に鋭敏になった私の耳は、女が門野の膝にでももたれたらしい気勢を感じるのでございます。……………………………………………………………………………………

まあ御想像なすっても下さいませ。私のその時の心持がどの様でございましたか。もし今の年でしたら、何の構うことがあるものですか、いきなり、戸を叩き破ってでも、二人のそばへ駈込んで、恨みつらみのありたけを、並べもしたでしょうけれど、何を申すにも、まだ小娘の当時では、とてもその様な勇気が出るものではございません。込み上げて来る悲しさを、袂の端で、じっと押えて、おろおろと、その場を立去りも得せず、死ぬる思いを続けたことでございます。

やがて、ハッと気がつきますと、ハタハタと、板の間を歩く音がして、誰かが落し戸の方へ近づいて参るのでございます。今ここで顔を合わせては、私にしましても、又先方にしましても、あんまり恥かしいことですから、私は急いで梯子段を下ると、蔵の外へ出て、その辺の暗闇へ、そっと身をひそめ、一つには、そうして女奴の顔をよく見覚えてやりましょうと、恨みに燃える目をみはったのでございます。