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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
ところが、その蓋を持上げて、まるで棺桶の中でも覗く気で、思い切って、グッと首を入れて見ますと、予期していました通り、或は予期に反して、どれもこれも古めかしい衣類だとか、夜具、美しい文庫類などが入っているばかりで、何の疑わしいものも出ては来ないのでございます。でも、あの極った様に聞えて来た、蓋のしまる音、錠前のおりる音は、一体何を意味するのでありましょう。おかしい、おかしいと思いながら、ふと目にとまったのは、最後に開いた長持の中に、幾つかの白木の箱がつみ重なっていて、その表に、床しいお家流で「お雛様」だとか「五人囃子」だとか「三人上戸」だとか、書き記してある、雛人形の箱でございました。私は、どこにも怪しいものがいないことを確めて、いくらか安心していたのでもありましょう、その際ながら、女らしい好奇心から、ふとそれらの箱を開けて見る気になりました。
一つ一つ外に取り出して、これがお雛様、これが左近の桜、右近の橘と、見て行くに従って、そこに、樟脳の匂いと一緒に、何とも古めかしく、物懐しい気持が漂って、昔物のきめの濃やかな人形の肌が、いつとなく、私を夢の国へ誘って行くのでございました。