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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

それを思うと気が気でなく、私はもう辛抱がしきれなくて、床から起き上りますと、もう一つの雪洞を用意して、闇のしげみを蔵の方へと走るのでございました。

蔵の梯子段を駈上りながら、見れば例の落し戸は、いつになく開いたまま、それでも上には雪洞がともっていると見え、赤茶けた光りが、階段の下までも、ぼんやり照しております。ある予感にハッと胸を躍らせて、一飛びに階上へ飛上って、「旦那様」と叫びながら、雪洞のあかりにすかして見ますと、ああ私の不吉な予感は適中したのでございました。そこには夫のと、人形のと、二つのむくろが折り重なって、板の間は血潮の海、二人のそばに家重代の名刀が、血を啜ってころがっているのでございます。人間と土くれとの情死、それが滑稽に見えるどころか、何とも知れぬ厳粛なものが、サーッと私の胸を引しめて、声も出ず涙も出ず、ただもう茫然と、そこに立ちつくす外はないのでございました。

見れば、私に叩きひしがれて、半残った人形の唇から、さも人形自身が血を吐いたかの様に、血潮の飛沫が一しずく、その首を抱いた夫の腕の上へタラリと垂れて、そして人形は、断末魔の不気味な笑いを笑っているのでございました。