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ひとのかお
人の顔
夢野 久作
「新青年」1928(昭和3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,908 字 · 12 页
しかしチエ子にはもう一ツ奇妙な……しかしあまり人の目につかない特徴があった。それは何の影もない大空と屋根との境い目だの、木の幹の一部分だの、室の隅ッコだのを、ジイッと、いつまでもいつまでも見つめる癖で、すぐ近くから呼ばれているのに気がつかないで、空のまん中に浮いている雲だの、汚れた白壁の途中だのを一心に見上げていたりするのであった。
母親はこの癖に気付いているにはいたが、温柔しい児にはあり勝ちのことなので、さほど気にかけていなかった。いくら呼んでも来ない時に、
「チエ子さん……何を見ているのです……」
なぞと叱ることもあったが、本当に何を見ているのか、きいてみた事は一度もなかった。
ところが、チエ子が六ツになった年の秋の末のこと、外国航路についている父親から、真赤な鳥の羽根の外套を送って来た。それは和服にも着せられる、鐘型の風変りなもので、その深紅の色が何ともいえず上品に見えた。
母親は早速それをチエ子に着せて、自分も貴婦人みたようにケバケバしく着飾って、四谷へ活動を見に連れて行った。母親は、どちらかといえば痩せギスで、背丈けが普通の女以上にスラリとしているので、チエ子の手を引いて行くのはいくらか自烈度いらしかったが、それでも、二人とも新しいフェルトの草履を穿いて、イソイソとしていたので、誰が見てもホン