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ひとのかお
人の顔
夢野 久作
「新青年」1928(昭和3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,908 字 · 12 页
四
チエ子は不思議そうな顔をしいしい温柔しくうなずいた。そうしてその晩から、母親に丸薬をのまされて寝ることになったが、そのお蔭かして、あくる朝は割り合いに早く眼をさましたのであった。
それ以来母親はまた、不思議に家に居つくようになった。朝のお化粧もやめてしまったが、その代りに夕方になると急にソワソワし出して、お湯に行ったり、おめかしをしたりして、まだ明るいうちに夕飯を仕舞うと、女中とチエ子を追い立てるようにして寝かした。そうして、チエ子が一度でも朝寝をすると、その晩から丸薬を一粒宛殖やしたので、一と月と経たないうちに、粒の数が最初の時の倍程になった。
チエ子は一日一日と瘠せ細って、顔色がわるくなって来た。
四
そのうちに、あくる年の二月の末になって、チエ子の父親が、長い航海から帰って来たが、玄関に駈け出して来たチエ子を見ると、ビックリして眼を瞭った。
「どうしてこんなになったのか」
と、短気らしく大きな腕を組んで、あとから出て来た母親にきいた。しかし母親がまじめな顔をして、何か二言三言云いわけをすると、間もなく納得したらしく、組んでいた腕をほどいて元気よくうなずきながら、靴をスポンスポンと脱いだ。