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ひとのかお
人の顔
夢野 久作
「新青年」1928(昭和3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,908 字 · 12 页
活動なぞにも、それから一度も連れて行かないで、自分ばかり朝早くからお化粧をして出かけると、夜遅くまで帰って来ない日が続くようになった。帰りがけにチエ子の大好きな、絵本を買って来るようなこともなくなった。
けれどもチエ子は、別に淋しがるような様子はなかった。それかといって女中と遊ぶでもなく、今までの通り古い絵本を繰り返して拡げたり、いろんなものをジッと見つめたり、人の顔らしいものを地べたに描いては消したりして遊んだ。それから日が暮れて、女中と一緒にお茶の間で、御飯をたべてしまうと間もなく片隅に敷いてある寝床の中に、湯タンポを入れてもらって、小さな身体をもぐり込ませる。それでも朝寝坊は今までの通りにしたので、どうかすると二三日も母親の顔を見ないことがあった。
「どうしてあなたは、そんなに朝寝をするのですか」
或る朝、珍らしく出て行かなかった母親がこう尋ねると、チエ子はいつもの通り母親の顔を見つめながら、下唇をムツムツさしていたが、やがてオズオズとこう答えた。
「あのね……あたし、お母さまとおネンネしなくなってから、夜中にきっと眼がさめるの。ソウスルトネ……電燈が消えて真っ暗になっているの。