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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

この言葉のうちに含まれる形而上学から、ひとは立派な養生訓を引き出すことができるであろう。

健康の観念に最も大きな変化を与えたのはキリスト教であった。この影響はその主観性の哲学から生じたのである。健康の哲学を求めたニーチェがあのように厳しくキリスト教を攻撃したのは当然である。けれどもニーチェ自身の主観主義は、彼があれほど求めた健康の哲学に対して破壊的であるのほかなかった。ここに注意すべきことは、近代科学の客観主義は近代の主観主義を単に裏返したものであり、これと双生児であるということである。かようにして主観主義が出てきてから、病気の観念は独自性をもち、固有の意味を得てきたのである。病気は健康の欠乏というより積極的な意味のものとなった。

近代主義の行き着いたところは人格の分解であるといわれる。しかるにそれと共に重要な出来事は、健康の観念が同じように分裂してしまったということである。現代人はもはや健康の完全なイメージを持たない。そこに現代人の不幸の大きな原因がある。如何にして健康の完全なイメージを取り戻すか、これが今日の最大の問題の一つである。

「健康そのものというものはない」