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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

お前さんの性質も、私はよく知ッている。それだから、お前さんが得心した上で、平田を故郷へ出発せたいと、こうして平田を引ッ張ッて来るくらいだ。不実に考えりゃア、無断で不意と出発て行くかも知れない。私はともかく、平田はそんな不実な男じゃない、実に止むを得ないのだ。もう承知しておくれだッたのだから、くどく言うこともないのだが……。お前さんの性質だと……もうわかッてるんだから安心だが……。吉里さん、本統に頼むよ」

吉里はまた泣き出した。その声は室外へ漏れるほどだ。西宮も慰めかねていた。

「へい、お誂え」と、仲どんが次の間へ何か置いて行ッたようである。

また障子を開けた者がある。次の間から上の間を覗いて、「おや、座敷の花魁はまだあちらでございますか」と、声をかけたのは、十六七の眼の大きい可愛らしい女で、これは小万の新造のお梅である。

「平田さんもまだおいでなさらないんですね」と、お梅は仲どんが置いて行ッた台の物を上の間へ運び、「お飯になすッちゃアいかがでございます。皆さんをお呼び申しましょうか」

「まアいいや。平田は吉里さんの座敷にいるかい」

「はい。お一人でお臥ッていらッしゃいましたよ。