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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

「それはおまえさんがそう思うだけだよ」

「一個無名の村夫子ではないか」

「おまえさんは名無しでもねえし、百姓爺いでもねえ、おまえさんが飯篠ちょうゐ斎さまだってこたあ村じゅうの者が知ってるし、よそから武者修業も来るそうでねえかえ」

「そこのところは、そこはわかってくれると思うが、わしとしてもじつに迷惑しておる、剣の道は神聖であって、遠路をいとわず教えを乞いに来たとなれば、道の精神からして拒むわけにはゆかない」

「そうだとも、そら教えてやるがいいだよ」

「いやそうじゃない、待ってくれ、わしは遁世しておる、わしは静閑でありたい」

老人はむきになって云った。

「いかに神聖な道のためとはいえ、もはや疲れもし、飽きてもきた、幸いこのところ一人もおらぬが、季節がよくなってまいったで、そろそろまた修業者が来るであろう、しかしもう御免じゃ、今年こそもう断じて教授はしない」

「できればいいだがねえ」

「断じてじゃ」

飯篠老人は云った。

「そしてしんじつ隠者になって、心しずかに神仙の道をまなぼうと思う」

「それができればなあよ」

杢助は大きな欠伸をして湯から出た。

さらに三日ばかり経った或る日、うす曇った午後のことであるが、二老人が小屋の中にいると、一人の若い旅装の侍が、戸口へ来て道を訊ねた。