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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页
「このたびは御本城よりのお召し、御名誉なことでございます」
「先生のお腕前なら悪豪傑などはひと捻り、ちょっと摘んで捨てるくらいのものでございましょう、どうぞ御武運めでたくお帰りあそばすよう、そしてわたくしが、これまでと同じように、心からお待ち申していることをお忘れ下さいませぬように」
「先生しっかりやってくんろよ」
娘たちはもっと素朴であった。
「その悪い野郎の手足をぶっ挫いて、首ったまをひっこ抜いてやるがいいだ、皮をひん剥いて土産に持って来てくんろえ」
「そうだ、身の皮をひん剥いて来てくろ」
弥市もはだしではねながら、叫んでいた。
「そいつをぶちのめして、眼のくりだまを抉りだしてやるがいいだ、ほんのことそいつの眼のくりだまを……」
杢助は溜息をついた。ひと捻りにされるのは誰であるか、手足をぶっ挫かれ、首をひっこ抜かれるのはどっちであるか。揺れてゆく輿の中で、杢助はこう自分に反問して、深く長い溜息をつくのであった。
金沢まで二日でいった。それは一般の日程のほぼ半分であった。
途中には変ったことはなかったし、杢助もじたばたはしなかった。煙草を忘れて来たのを不満に思うくらいにまで、気持のおちつきをとり戻していた。