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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

「先生おみごとです、おみごとでござります」

杢助の発作は頂点に達し、したがって恢復し始めていた。彼は耳を聾する歓声を聞きながら、ぼんやりと心のなかで呟いた。

――やっぱり思ったとおりだ、なにかが起こったにちげえねえ、なにかが、……災難はのがれただ。

杢助は領主の前に呼ばれて褒美を賜わった。暫く城中の客になるようにといわれ、連日にわたって豪奢な饗応を受けた。大豪傑は(首をくれずに)逃亡した、杢助は金沢城を救ったのであった。評判はたちまちのうちに、ひろく領内にひろまっていった。

三日めの午後、一人の老人が金沢城の大手門の前に立った。大手の門の門番のところへ来て、右手に自然木の杖を持っていたが、その杖を大地に突いて云った。

「自分は飯篠長威斎である、御領主、加賀守侯に面会したい、早速そう取次ぐように」

「なんだって、飯篠なんというって」

「飯篠長威斎、山城守直家である」

「おい、妙な気違いが来たぞ」

門番の侍は同僚に向って云った。

「こいつ飯篠長威斎だとよ、先生の評判を聞いて気でも狂ったんだろう」

「いや自分は狂気はしない」

老人は云った。

「そのほうの申す評判を聞いたからまいったのだ、自分が正真正銘の長威斎、城中にいるのはくる眼の杢助というにせ者である」