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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

「ほほう」

ともう一人の門番が云った。

「それでいったい、どうしようというのかい」

「これは私利私慾ではない」

老人は云った。

「わしはすでに遁世の身であり、俗世の名利を捨てておる、自分の名声や利益などは問題ではない、けれどもじゃ、にせ者もにせ者、くる眼の杢助などという愚か者が、飯篠長威斎の名をなのるのに、誰ひとりこれを看破することができず、まことの長威斎と信じてもてはやすということでは黙ってはいられない、これはすなわち剣の道の神聖を涜し、武道の正真を嘲弄するものであって」

「なんだなんだ、その爺いはなんだ」

城の中から出て来た五六人の侍たち(みな若く元気そうであった)が、こう云ってこっちへやって来た。門番の侍が笑いながらわけを話した。老人はそれを遮って、自分から若侍たちのほうへ進み出て、威厳のある容態でもういちど自分の主張を述べた。

「自分の名利のためではないぞ」

と老人は繰り返した。

「決して名利のためではない、ただ剣の道の神聖を守るがために」

「まさに気違いだ」

若侍たちは笑った。

「ゆけゆけこの爺い、まごまごするとひっ捉まえてお堀の中へ叩き込むぞ」

「無礼者、なにを申すか無礼者」