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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

「うるさいな」

一人が老人を押しのけた。

「通行の邪魔だ、どけどけ」

そしてかれらは去っていった。押しのけられた老人は嚇となり、杖をひきずって、かれらのあとを追った。追いつきながら叫んだ。

「そのほうどもは盲人か、その眼は節穴か、百姓爺いと長威斎のみわけもつかないのか、もう一度よくわしを見ろ、このわしを」

と老人は片手で胸を打った。

「天下の長威斎をよくよく見ろ」

若侍たちはもう相手にならなかった。互いに話したり笑ったりしながら、ずんずん向うへ歩いていった。

「ばか者ども」

老人は立停った。

「なんという愚かな、ばか者の低能どもだ、わしはきさまたちのために来てやったのだぞ」

老人は去ってゆく若者たちのほうへどなった。

「自分のためではない、きさまたちの誤りを正し、真実を教えてやるために来てやったのだぞ、待て、ばか者ども、わしの云うことが聞えないのか」

若侍たちは辻を曲って去った。老人は口の中でぶつぶつ云い、ちょっと考えてから、杖を突きどこかへ去った。もちろん、老人は諦めたのではなかった、翌日も大手門へやって来て、前の日と同じことを云い張った。そしてその翌日も、その次の日も、次の次の日も来た。