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かじつ
佳日
「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页
なんでも、いまは、イタリヤ製のいい薬があるそうですし、それに先方の小坂吉之助氏だって、ずいぶん見事な、――」
「それは、としとってから禿げるのは当りまえの事だが。」先生は、浮かぬ顔をしてそう言った。先生も、ずいぶん見事に禿げておられた。
数日後、大隅忠太郎君は折鞄一つかかえて、三鷹の私の陋屋の玄関に、のっそりと現われた。お嫁さんを迎えに、はるばる北京からやって来たのだ。日焼けした精悍な顔になっていた。生活の苦労にもまれて来た顔である。それは仕方の無い事だ。誰だって、いつまでも上品な坊ちゃんではおられない。頭髪は、以前より少し濃くなったくらいであった。瀬川先生もこれで全く御安心なさるだろう、と私は思った。
「おめでとう。」と私が笑いながら言ったら、
「やあ、このたびは御苦労。」と北京の新郎は大きく出た。
「どてらに着換えたら?」
「うむ、拝借しよう。」新郎はネクタイをほどきながら、「ついでに君、新しいパンツが無いか。」いつのまにやら豪放な風格をさえ習得していた。ちっとも悪びれずに言うその態度は、かえって男らしく、たのもしく見えた。
私たちはやがて、そろって銭湯に出かけた。