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ふしゅう
俘囚
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页
「うん、三万円ばかりさ。――こんな可笑しなことはないというので、記事は禁止で、われわれ行員が全部疑われていたんだ。僕もお蔭で禁足を喰ったばかりか、とうとう一泊させられてしまった。ひどい目に遭ったよ」
松永は、ポケットの中から、一本の煙草を出して、うまそうに吸った。
「変な事件ネ」
「全く変だ。探偵でなくとも、あの現場の光景は考えさせられるよ。入口のない部屋で、白昼のうちに巨額の金が盗まれたり、人が殺されたりしている」
「その番人は、どんな風に殺されているんでしょ」
「胸から腹へかけて、長く続いた細いメスの跡がある、それが変な風に灼けている。一見古疵のようだが、古疵ではない」
「まア、――どうしたんでしょうネ」
「ところが解剖の結果、もっとエライことが判ったんだよ。駭くべきことは、その奇妙な古疵よりも、むしろその疵の下にあった。というわけは、腹を裂いてみると、駭くじゃあないか、あの番人の肺臓もなければ、心臓も胃袋も腸も無い。臓器という臓器が、すっかり紛失していたのだ。そんな意外なことが又とあるだろうか」
「まア、――」とあたしは云ったものの、変な感じがした。あたしはそこで当然思い出すべきものを思い出して、ゾッとしたのだ。