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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

「して御所望と云わるるのは?」「備前侯は弓に御堪能、かねがね御家中の自慢話を伺っておるゆえ、この狼を馬場に放ち、犬追い物を見せて戴きたいと存ずる」聞いて光政は膝を打った。「これは面白い、さすがは安芸侯よきことを思いつかれた、早速支度をさせて試みましょう」「では明日拝見にまいるから」

とその日は光晟は宿所へ帰った。光政はすぐ老臣に命じ、城中の小馬場に支度をさせた。なにしろ兇猛な人喰い狼を放つのだから外れたら大変である。馬場の中央に丸く竹矢来を結び、射手は馬でその周囲を廻れるように厳重に拵えた。……その一方、誰を射手に選ぼうかといろいろ相談をした結果、森脇右門作、赤川平五郎、要七之助の三人を射手と定め、それぞれその旨を達した。さてその翌日。支度がととのったからという使者を受けて城へのぼった安芸守光晟は、光政と共に設けの桟敷へあがって席に就いた。……幕張の左右には両家の老臣はじめ、目見得以上の家臣が犇々と並んでいる。狼はすでに結び矢来の中に放されていたが、不安な様子で、背筋の毛を逆立て、牙を剥きだしながら、矢来の中央に四足を張って立っていた。

やがて合図の太鼓が鼕々となった。