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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
「……されば」「たしかにお持ちなさったは一筋、命矢は御所持なされなかったでござろうな」「……さればでござる」むしゃむしゃ芋の煮付を喰べるばかりで、幸之進の方には眼もくれない。
「ではお伺い申す。拙者格別その道の心得はないが、弓を射るには必ず、命矢と申して二の矢を控えて持つのが作法と聞き及ぶ。それを、わざと一の矢のみ持って出られたのは、なにか心得があってなされたことか、どうでござる」「……されば」三之丞はごくりと芋を呑み眼もあげずに答えた。「一矢で射止めることができると存じたゆえ、一矢だけ持って出たのでござる」「さもござろう」幸之進はにっと笑った。
「拙者もそうあろうとお察し申した。なれども青地氏、例え一矢で射止められるにもせよ命矢を控えて持つのが弓の作法ではござるまいか、一矢で射止められるからとてわざと命矢を持たぬのは、申せば高慢とも云うべく、弓の作法にはかなわぬと存ずるが如何でござる」自分に高慢の癖があるから、人の高慢はよけい眼につくらしい。それをも知らずみんなの褒めているのが癪に障るし、また老職が二人もいるから、自分を認めてもらうにはいい折とばかりに突っ込んだ。