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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

「青地氏ではないか」「これは滝川どの、過日は失礼仕った」

「ほう、過日の事をまだ覚えておいでか、それはそれは。あの勝負の始末、まだ覚えておいでとは殊勝な事、拙者はもはやお忘れかと存じておったよ。ほう、あの負けをまだ覚えておいでだったか」

「されば」三之丞は軽く会釈して行こうとする、幸之進はたたみかけるように、

「覚えているなら申上げるが、武士としてあのような敗北をした者は、いますこし謙譲になさるがよいな。岡山のような田舎だからこそ世間も黙っていようが、これが江戸表でもあれば世の中への顔出しは無論のこと、すこし恥を知る者なら切腹ものだ……聞けばお上から何か拝領物があったそうだが、あのような敗北をしたあとでまさかのめのめ拝領物でもあるまい、御辞退なされたものと思うが如何でござる」「されば、如何とは存じたが、お上の御意志かたじけなく頂戴を仕った」「なに拝領した。拝領なすったのか」憎々しく大仰に眼をひらきながら、幸之進は声高に続けた。

「いやこれは驚いた、さても岡山の御家風は不思議なものだな。誠お役にたつべき腕があってこそ恩賞も下され、又拝領もするのが世のならわしだと思うに、それほどの心得もない者が、まぎれに狼を射止めて恩賞のお沙汰があり、それを又辞退もせず拝領するとは珍しい。