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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
紙治が始まったので私たちは席に返った。私は父の語る浄瑠璃でなじみなのだが、舞台で鴈治郎のを見て美と恋の幻影に憑かれてしまった。私は廊下に出た時には酔ったようになっていた。私は鶴子がはばかりに立ったのを見て、後を追うた。そして彼女が鏡に向かって顔を直している時に、耳元に素早くささやいた。
「明日千光寺へいらっしゃらない?」
が私は返事を聞く勇気は持たなかった。そう言って置いて、彼女の顔も見ずに席へ返ってしまった。胸がドキドキして、落付いて見られなかった。
妹背山では鴈治郎のお三輪は無白であった。あのしゃがれ声を避けるためだったのであろう。あの年寄りがきれいになるものだとは驚いても、どうも不安で、美感がさまたげられた。
芝居がはねて家へ帰ってからも、寝床の中で私は姉と長く話した。姉が疲れて寝入っても私はまだ寝つかれなかった。芝居の後味と鶴子の幻影とがひとつにもつれ合って、なやまされた。
「彼女に聞えたのだろうか。聞えたにしても来るだろうか?」
彼女はわりに平気な顔していたようだった。別れしなに、チラと私を見た時の顔は飲み込んでいるのではあるまいか。少なくとも怒っていないことだけは確かだ……