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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
私は坂の上に立って見送った。曲り角で一度振り向いたがそのまま行ってしまった。
私は胸をおどらせつつそのハンカチを開けて見た。美しい錦襴で張った小さな名刺入のようなものであった。いい薫りがこめてあったが、中には何も入ってなかった。私は後になって、彼女の小さな写真をこの中に挟んで置きたかったが、願いは空しかった。
これが、私が彼女を見た最後となったのだ。
私は程なく彼女が喀血したという事を姉から聞いた。
私は心配したが見舞いに行く事は出来なかった。彼女の迷惑を恐れて、手紙もあげられなかった。
しかし堪え切れなくなって、無名で見舞いの絵葉書を出した。が返事は来なかった。
私は胸につかえるので、姉に鶴子と二、三度逢ったことを話すと、
「鶴子さんは肺病だからねえ。外の事なら何とかしてあげるけれど、もう遊ばない方がいいと思うわ」
と気の毒そうに言った。姉にして見れば二、三度物を言い合った位の極く淡いことをとり上げる気になれないのは当然であった。それに肺病はそのころはかなり恐れられていた。
その後私は彼女が遠くの或るサナトリウムに行ったということを聞いた。
彼の女から便りも無かったし、私も手紙もあげられなかった。