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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
考えて見れば言葉を交わしたのも、三、四回、目に見たのも十度を超えない。淡い淡い思い出だ。それでも年少の胸には深く深く残った。
しかし尾道での少女の思い出はこれだけだったのではない。もっと楽しい、軽い、そしてもう幾分性の好奇の芽ばえのあるような思い出も色々あった。たましいの深みを揺がさない程度の、アンゲネームな美の経験というものは詩人的素質の少年にはかなり拡がりを持ち得るものである。
渋谷すみ子という少女は、尾道風の町娘で私と同い年であった。彼女はめりんすばかり専門に売る反物屋の娘であった。彼女はひどい尾道なまりをむき出しに使い、おはねなのが魅力があった。しかしそれでも下品なところは少しも無かった。大てい日本髷に結って、いつ見ても、明るく快活だった。
私はこの少女とは鶴子の場合と違って、受身であり、私の方から心を悩ますような事はなかった。
この子の母と伯母とは三味線の友達であった。もっとも地唄の方であった。が、すみ子は面倒臭がって、稽古事はしなかった。その代り彼女は料理と裁縫とが得意であった。※の山行き(野宴のこと)の時には板前の方を手伝った。そして私は或る家の葬式の時に、彼女がいろを縫ってる殊勝な姿を見た。